東京高等裁判所 昭和36年(う)1071号 判決
被告人 柿沼武夫
〔抄 録〕
所論は、原判決が、昭和三十六年一月十四日付起訴にかかる器物損壊の公訴事実につき、犯意を証明するに足る証拠がないとして無罪を言い渡したのは、事実誤認であると主張するのである。
よつて按ずるに、原審において適法な証拠調を経た岡田泰佑の司法警察員に対する告訴調書、司法警察員作成の実況見分調書、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、被告人の原審公判廷における供述、並びに当審において取調べた検証調書、証人岡田泰佑、同久保田茂雄の各尋問調書、司法警察員作成の昭和三十六年四月三日付実況見分調書を総合考察すると、前記公訴事実、すなわち、被告人は昭和三十五年十二月二十八日午前零時頃東京都墨田区江東橋三丁目二番地仙禽酒蔵こと岡田泰佑方前道路上において同所に設置してあつた同人所有のブリキ及び硝子製の立看板一基を手拳にて突きこれを損壊したとの事実を認定することができる。特に前記実況見分調書(二通)及び当審検証調書によれば、本件立看板は高さ二米、幅一米余、厚さ〇、一九米、内面空洞のブリキ製全面白色ペンキ塗りもので、その上部に「せんきん」「仙禽」、中程に「もつ焼」と両面に相当大きく切り抜いて、その部分に両面共ガラスをはめこんだ部分があり、内部に螢光燈管が施設せられていたものであり、前記岡田方入口に接し道路に直角に立つていて、本件犯行当時螢光燈は消されていたが、周囲の照明状況にかんがみると、何人も一見して前記のような立看板であることを認識し得る状況にあり、しかも内部螢光燈の消燈下においても前記ブリキ部分とガラス部分との区別を容易に識別し得ることを認めることができ、更に被告人に対する前記各供述調書並びに原審公判廷における被告人の供述、当審検証における被告人の指示説明に徴すれば、被告人は強く右立看板の中程を手拳で突き、前記「もつ焼」の部分の両面のガラスを突き抜き、内部の螢光燈管を破壊したというのであるから、原判決が、無罪部分についての判断の項において説明するように、仮りに当時被告人が相当酒に酔い、通りがかりの青年二名によつて殴打された直後のことで興奮状態にあり、しかも裸眼視力〇、一の近視でありながら眼鏡をかけていなかつたとしても、前記のように強力に対象物を突けば、少くとも右物件の全部又は一部が損壊するかも知れないとの認識を欠いていたものとは到底認められないのである。従つて被告人には右看板損壊の犯意を認め得ない旨判示した原判決は事実を誤認したもので、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
(岩田 司波 小林)